■ Part One
最初は、「それ」について心配する人はほとんどいませんでした。新しい厄介なウイルスは周期的に出現し、アメリカではその季節に最も流行するインフルエンザウイルスに対応するワクチンも用意されます。ですから、多くの医療従事者以外の人々が「インフルエンザウイルスの突然変異株」だと思っていたものが最初に報告されたときは、世間は過度に警戒していたようには見えませんでした。しかも、その新しいウイルスが発生した中国は、非常に遠い国のように見えたからです。しかし、この認識はすぐに間違っていることが証明されました。ウィルス感染が始まった武漢と、米国で初めて感染者が出たと報告されたシアトルの距離は、7,500 マイル離れた遠い国ではなく、わずか11時間のフライトで行き来できる距離だったのです。
私たち夫婦はその日、シアトルで週末を過ごしていました。その日とは、シアトルの病院ででアメリカで最初のコロナ感染症状が発覚した日です。その病院は私たちが滞在していたホテルからわずか数マイル離れたところでした。私たちは混雑した音楽会場に行き、何台ものUberに乗り、人気レストランのテーブルを待つ間、肩を寄せ合いながらウェイティングバーに立っていました。パイク・プレイス・マーケットの本屋さんやお店を見て回り、賑やかなホテルのロビー・バーでお酒を飲み、別の混雑したレストランでブランチを食べました。帰りは満席の電車に乗って4時間弱の風光明媚な車窓の景色を楽しみながらポートランドに戻りました。