「アーティスト」と「イラストレーター」。このバランスのなかで絵を描いているのではないかと思います。
谷口:chignitta spaceにようこそ!チグニッタ谷口と笹貫です。さくらいはじめさんを迎えての「Hip & Square」スタートしましたが、大好評です!さくらいさん、どうですか?
さくらい:はい、僕はホンマに、今回かなり挑戦的なことをやらせてもらってると思ってるんですけど。ここ2、3年谷口さんからは「大きな作品を作れ」と指令を出されていたのを頑なに拒んでいたのですが。というより自信がなかったのもあるのですが、2020年に予定していた展覧会がコロナで全滅になってそのぶん、今年に4回個展してて、3月に福岡、6月に東京、9月に京都とやってチグニッタに至ってるんですけど。2020年のブランクがあったせいか、今年好調でして。笑。作品もたくさんお買い上げいただいたり、手応えも感じていたので、今回いままで言われていたデカい作品に挑戦してみようと。今でも作ってて「こんなデカい作品日本で売れるのか」って思ってて、冒険というか挑戦というかバクチというか。ほんまにやらしい話なんですけど、この展示のための準備に経費が50万以上かかってるんですよ。笑。ほんまの意味でもバクチでもあって。開催に至ったんですけど。どうですかね。
谷口:いいんじゃないですか?笑
さくらい:これだけ言わせて「いいんじゃないですか?」だけですか?笑
笹貫:思った以上にすごくて、会場に入った時からもう「イエーイ」ってなって、ものすごくテンション上がって。すごくかっこいいです!さくらいさん、本当に必死のパッチでがんばりましたもんね!褒めすぎ?
さくらい:褒めてもらって伸びるタイプなんで。ありがとうございます。
谷口:さくらいくんとはもう15年ぐらい付き合ってて。何度か変遷があったと思うんだけど。そもそも出が「モッズ」っていうのがややこしいんですよ。モッズの人だけですよ。「モッズ」をやめるとか、「モッズ」的には、とかいつまでも口にするのは。
注)Mods(モッズ) とは、1950年代後半〜60年代中頃にかけて、ファッションと音楽をこよなく愛したイギリス・ロンドン近郊の若者たちのスタイルの総称。
さくらい:そうですね。僕の中には「モッズ」からはじまる「スタイル」への執着というのが常にあって、「そのスタイルが自分にとって合ってるのか、そうでないのか」「どう自分がアプローチしているのか」というのを無駄に意識してるんですよ。その意識というのは他の人にとってどうでもいいことなんですけどね。
僕ね、谷口さんに15年前に言われて無茶苦茶覚えてるのが「渋谷系がリバイバルしない限り君はブレイクしないよ」って。笑。めちゃ印象に残ってるんですよ。あのときの谷口さんの言葉を思い出すと、何気なしに15年後の予言をしてたんじゃないかと思うくらいです。
注)渋谷系またはシブヤ系、もしくは渋谷系サウンドとは、東京都の渋谷を発信地として1990年代に流行した日本のポピュラー音楽のジャンル、ムーブメント。1990年代中期から後期にかけて栄えたファッションスタイルを指すこともある。
谷口:今渋谷系、リバイバルしてるしねー。さくらいブームも来てると。笑。そのあと、僕の印象では、永井博さんとの出会いも大きかったでしょ。
さくらい:そうなんです。その時、永井さんに「作家性だすなら肉筆じゃないとダメだよ」って言われたんです。そもそもグラフィックデザインやってて、その延長でイラストレーターやり始めた感覚があったので、デジタルでやることが普通だったし、アートに対しての意識もなかったんですが、その辺りが大きく変わってきましたね。自分がどうやったらアートに寄れるのかなどわからないからとりあえず手描きの作品出してみようとかとりあえず展示をやっていこうという行動を先にやってきことで掴めてきた感覚があります。
あと、イラストレーターはオーダーがあって仕事があるので、それにどうやって答えるかというのがあるわけだけど、こういった展示というのは頼まれてないわけだから、自分の好きなものを描いてそれに対してお客さんが気に入ってくれるという話なんですけど、とはいえ、どういうものがお客さんに受けるだろうか、やっぱり売れなあかんと思うので、完全にお客さんの目を度外視するということにならないと思いますね。
ですから僕の中ではきっぱりと「アーティスト」と「イラストレーター」というのを分けて考えられないというか、このバランスのなかで絵を描いているのではないかと思いますね。