ギャラリートークにたくさんお集まりいただき、ありがとうございます。まずは自己紹介からお願いします。
唐仁原希です。油彩画の作品を制作しています。出身は京都市立芸術大学で2020年に博士課程を修了しました。特に西洋の古典絵画と、日本のサブカルチャー、アニメや漫画とのかかわりをテーマに作品を描いたり論文を書いたり研究をしています。普段は京都のギャラリーや美術館などで作品展示をしています。
今回の展覧会「トリックスターは笑わない」では、普段と違った展示をしています。こちらの作品についてはまた後ほど解説させていただきます。
まず、私が西洋絵画に興味を持った原体験が「フランダースの犬」のアニメです。ネロとパトラッシュが最後、ルーベンスの絵を観てハーっとなるシーンがあるのですが、子供の時にネロと一緒に感動して見ていました。キリストが十字架にかけられる瞬間を描いた17世紀のバロック時代の絵なのですが、こんなに素晴らしい絵があるのかと思いました。
同時に子どもの頃から「ドラゴンボール」や「幽遊白書」などにも影響を受けていて、少年漫画の特別な主人公たちが世界を救うストーリーに影響を受けて、今の絵画のスタイルが生まれました。
アニメやゲームの話に焦点を当てると、西洋の世界観を背景に描かれていることが多いんですよね。少し前に、京都で「ルーブル美術館展」を観たのですが、隣で小さな子どもがバロック時代の作品を見て「ドラクエっぽーい」って話をしていて、それを聞いた時、ものすごく文化と時代がねじれているなと感じました。異国の古典絵画を見て子供がドラクエぽいと言ったり、私が子供時代に感じた懐かしさを感じたりする現象に興味が出てきて、そのねじれを自分の作品に描きこんでいます。
最近、ジョセフ・キャンベルという神話学者の「神話の力」という本を読んだのですが、西洋東洋問わず発生する神話の中になぜか似通った部分があるらしいのです。神話の中の主人公は、最初荒くれ者だったのが、怪物を倒してお姫様を守って、人間的に成長し神に近い存在になっていくと。その本を読んだ時に「少年漫画ってめちゃくちゃ神話やん」って思って、笑。なので、私がバロックの聖書の世界が描かれた絵画を見た時に感じる感覚と、漫画を読んでいる時とか、ゲームに没頭してラスボスを倒しにいく感覚が妙に似ているんですよね。その共通点に最近気づいて「私はそういう仕事を絵の中でやっているんだな」と思うようになりました。
そもそも、人間は時代が変わっても根源的に求めるものがあって、それが神話として発生し続けているのではないかと思っていまして、その物語を解釈することで、人間が普遍的に求めているものがわかるんじゃないかと思って。私は、自分の絵画の中にそういった物語性を入れ込もうとしています。