いまエグルストンのお名前が出ましたけど、彼やマイヤーウィッツなど、所謂「ニューカラー」と呼ばれる写真シーンが出てくるのは80年代以降ですよね。それを思うとマイクさんの一連のカラー写真は相当早かったことになりますね。
マイク野上:僕の育った時代は戦後で、白黒よりカラーが偉かったんですよね。笑。テレビもそうですし。だからそのうち誰もがスナップショットもみんなカラーで撮るようになるんじゃないかなと。だから僕もカラーで撮ってやるぞと思ってた。そしたらエグルストンもカラーで撮ってて、じゃあ僕も頑張ろうと。
で、78年の暮れに日本に一時帰国したときに、ある有名カメラ雑誌にこの写真を持って行ったんです。そしたら全然わかってもらえなくて追い返されて。
「もっと子供の笑顔の写真とか撮った方がいいんじゃない」とか言われて。笑
そういえば「アメリカーナの探求」シリーズにはほとんど人物が写ってっていませんね。人がいないことで逆に静寂感がありますよね、人が入らないように狙って撮っておられたのか、そもそも人はあんまりいないんですか?
マイク野上:そもそも人はあんまりいないんですけど。笑。景色を見てもらうのに人間がいたらみんなそれを見ちゃうから、いない方がいいかなと。ワンちゃん散歩させてると、他のワンちゃん見たら吠えるじゃないですか。人間も同じ。やっぱり人間は人間に興味があるらしくて、人が写ってるとそっちを見ちゃう。なので人はアヴォイドしました。
「NEW YORK – HOLY CITY」写真集のコメントに細野晴臣さんが書いておられるのは、野上さんの写真は「一歩引いて、ものを見せる撮り方をする」ということをおっしゃっていられますが、その感覚みたいなものはおありだったのですね。
マイク野上:僕が若いときに、篠山紀信さんがどこかで「対象を見たら、一歩前へ出て撮るんだ」て言ってた。それは精神的な意味なのか現実に一歩前で撮るのかよくわかんなかったんですけど、とにかく一歩前に出てというのが常套句だったんですよね、その頃大学の写真部に入っていたんですが。アメリカに来てからは、「じゃあ一歩引いたらどうなの」って思うようになって、一歩引いてみると全体が見えるんですよ。
僕も昨日、作品を展示しながら思ったんですけど、大阪のロードサイドにもラーメン屋の大きな看板があったり、中古車チェーンがあったりするじゃないですか。ひょっとしたら海外の人が見れば、そういう風景に興味を持つんじゃないのかな、と思いまして。当時ワシントンに住んでいたアメリカ人にとっては普通の景色でも、日本から来た野上さんだからこそこのような風景を見つけることができたのではないのかと。
マイク野上:「AMERICAN」という白黒の超有名な写真集があって、ロバート·フランクという写真家ですが、彼もスイス人なんですよね。外国人の方がアメリカのエッセンスというのが見えるのではないかと。僕も外国人だからよかったのかなと思いますね。
そういえば、野上さんが展示のBGMを「パリ·テキサス」にしてよってリクエストされましたが、そういえばヴィム·ヴェンダースもドイツ人ですしね。
で、この78年に撮られた「アメリカーナの探求」が、45年経って昨年ようやく写真集としてまとめられたという。これだけの時間が経ってからの出版というのはどういう経緯だったんでしょうか。
マイク野上:どうでしょう。最初に有名写真雑誌に持っていってリジェクトされたのがトラウマになってたからかな、笑。僕は未来を意識して現在を撮るので、いつも僕の写真には時間が必要なんです。だから、ずっと準備していて、今できて、とてもよかったと思っています。今見ると、とてもわかりやすいですよね。
これが80年代に出ていたら凄いことになってたかも、とかも思うんですけど。
マイク野上:ま、こういうことなんで。笑。