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武末充敏「愛おしいものたち」

福岡天神から西鉄で二駅。大橋駅西口にあるモダンなビルの4階にある老舗セレクトショップ 「organ(オルガン)」。スウェーデン、デンマークなど北欧の家具や雑貨を中心に、店主の武末さんと奥様の朋子さんが世界を歩き、選び抜かれたものたちが丁寧に並べられています。ビルの階段をてくてく昇り、息を切らせてドアを開けると、いつも優しい笑顔で迎えてくださる武末さんは、僕にとってずっと憧れの方。インタビューにあたり、武末さんには30年にわたって集めたコレクションから5つを選んでいただき、お話を伺いました。武末さんが選んだ愛おしいものたちを通じて、武末さんの美意識に迫りたい、と思ったのです。

(取材・写真:谷口純弘)

武末 充敏

organ 男店主。1949年博多生まれ。10代で出会ったThe Beatles や The Band に導かれ音楽の道へ。学生時代に上京し、70 年代、バンド「葡萄畑」を結成。今でも日本のロック名盤と呼ばれる2枚のアルバムを発表。80年代、福岡にもどり「タワーレコードKBC」に勤務。”家具の音楽”を目指し「FLAT FACE」というユニットでレコードを発売。1999年、自宅にインテリアのセレクトショップ 「organ」をオープン。福岡在住のデザイナーと”靴のままの生活”を推進するENOUGHや、ZINEなどを試行。

https://organ-online.com/

■伝説のロックバンド「葡萄畑」、福岡に戻られての「タワーレコードKBC」勤務を経て、86年にリリースされたテクノポップユニット「FLAT FACE」と、音楽が中心の生活だった武末さんの関心が、デザインやインテリアに移ってきたのは何がきっかけだったのですか?

ブルータス 1995年6月1日号 特集「イームズ/未来の家具」

椅子ですね。イームズです。1995年ブルータスの「イームズ特集」が最初です。表紙がプラスチックチェアでした。「これ、昔から好きな椅子だけど、イームズだったんだ」と。子どもの時から馴染みもあるし「モダン」という言葉が一番似合う椅子だなと思ったんです。その号を編集されたのが岡本仁さんだったんです。ずっと後になって、友人の小柳帝さんから紹介されたんです。岡本さんに「イームズのファンだったんで、僕は岡本さんのファンです」て言ったら、岡本さんは「僕は、葡萄畑のファンでした」って言われて。僕ら五人のバンドで、ライブハウスに客四人だった現場に岡本さんいたそうです。笑。そんなよくできた話ないよなと、最初かなり疑ったんですけどね。笑。

 

それからガンガン買付けに行きましたね。アメリカ、フランス、オランダ、フィンランド。それぞれの国にデザイナーがいて、デザインした椅子がありました。見た瞬間「好きだな」とか「好みだな」となって。触ってみて、座ってみて、デザインがいいな、バランスがいいなと思ったりすると、そのデザイナーに興味が出てくる。例えば、アアルトというデザイナーがあんなシンプルな椅子を、1930年代のデコラティブの時代に作っていた。その国、その時代の必然性の中で生まれたデザインをやってる人たちが面白くなってきたんです。

「organ」店内。世界各地から買い付けた家具や生活雑貨が美しくレイアウトされお客様を迎える。

最初に買った椅子は、シカゴでのイームズのシェルチェア。15ドルくらいで売ってますと聞いて買付けに行きました。フランスでは最初は椅子ではなく、プラスティックのキッチュなランプを仕入れ、続けてベルギー、オランダ、コペンハーゲンへ。素晴らしい工芸の世界。スウェーデンはガラスや陶芸が素晴らしかった。

 

ヘルシンキ(フィンランド)は暗い街でした。道路は広すぎるし、建物は古めかしいし、モダンさはほとんど感じない。社会主義の国だな、と思いました。そうやって実際に訪れると、アアルトのデザインも歴史的な流れの中で生まれてきたんだと想像できる。次々に興味が湧いてくる。そうなるとやめられないですよ。

 

買った椅子や家具を日本へ運ぶのも大変でした。ノウハウも知らないしね。コンテナを手配したり、手続きが大変でした。高いし、面倒だし、試行錯誤でいろんな方法を試しましたよ。満員のパリのメトロで買った椅子を運んだこともあったしね。そうやって少しずつ経験を積んできました。

武末さんが選んだ「5つの愛おしいもの」。  一つ目はイームズのプライウッド・チェア

Charles Eames / DCM Chair

 

イームズですね。最初、中目黒のモダンファニチャーショップでこの椅子を見たときに「かっこいいな」「これだな」と思いました。すでに経年していていい色になっていたし、とにかく欲しいと思いました。店長さんにいろいろ話を聞き、僕、多分その場で値切ったとおもうんですけど。笑。「委託商品なのでお値引きはできないんです」と言われて、その接客も紳士的でいい感じだったんで。買おうと思ったんです。椅子をコレクションする大きなきっかけになった一脚です。

シャルロット・ペリアンの椅子、無骨なフォルムの愛すべき一脚。

Charlotte Perriand / Les Arcs ski resort stool

 

フランスの建築家、シャルロット・ペリアンの椅子です。フランスに行き出した頃、ペリアンの情報は知っていましたけど、本物の椅子はほとんど日本には入ってなかったし、見たことはありませんでした。当時、ペリアンはすでにギャラリーが扱っているものばかりで値段も高かったですね。なんとか安い店を探そうと、蚤の市をめぐって手に入れました。

ペリアンはル・コルビュジエの事務所に入って、コルビュジエの作る建築に対して、家具をデザインしはじめたのがキャリアのスタートなんです。この椅子は、Les Arcs(レザルク) というスキーリゾートの施設で実際に使用されていたスツールです。もともと庶民のスキーリゾートでみんなが気兼ねなく使えるように作られたもので、販売が目的ではなかった。そういう意味でも希少なんです。その後、施設が分譲や賃貸に出されたりして、リサイクル品として放出されていたのですが、近年評価されて価値が上がり、いまではほとんど手に入らなくなってしまいました。

彼女の言葉「生活のアート」につながる作品だと思いますね。狭い部屋でスツールにもテーブルにもなるという究極の工作物ですよ。ペリアンに言わせると「これでいいんじゃない?」っていう潔さ。少しだけスリットを入れてデザイン感も持たせたり、彼女なりのサービスもある。とても愛おしいデザインです。

ルーシー・リーのソルト&ペッパー

Lucie Rie / Salt & Pepper

 

ルーシー・リーが好きになったときには、彼女の陶器もギャラリーでしか買うことができなくなっていました。彼女も初期のプロダクトとしてテーブルウエアをつくっていて、僕も彼女の生活用品からはじめてみようと。で、海外で買付けたこれが送られてきて、梱包を解くと、「ササッ」て音がして塩が出てきた。「使ってたんだー」と。笑。これ、まるで縄文土器みたいですよね。濃い茶色の民芸的なモチーフ。ある種プリミティブでかつモダニズムにも耐えうる、強い自由な形を感じて、ルーシー・リーのなかでもこれは好きなんです。使ってないけどね。笑。

 

リサ・ラーソンのユニークなオブジェ

Lisa Larson / Object

 

ポーズのとりかたがなんともね。座禅っていうのでもないし。リラックスにしては足の位置があれだし、手が伸びて床についてますもんね。リサ・ラーソンといえばライオンとか、かわいい陶器のイメージがあると思うんですけど、本人かなりいたずら心もあるし、女性だからこその意地悪なユーモアも感じるんですよね。これもね、悩んでるようにも見えるんですよ。考え込んじゃってるのか、いろいろ見えるところが好きですね。

 

リサ・ラーソンを好きになった1998年頃、大阪でgrafの服部さんとdieciのお二人と知り合いとてもシンパシーを感じました。アメリカやヨーロッパのデザインを、どうやったら日本の生活スタイルに提案できるかを試したくなった時期だったと思います。東京のプレイマウンテンもほぼ同じ時期のスタートでしたね。その後、北欧デザインはブームとなって今ではたくさんの人がなにがしかの物を生活に取り入れるようになりました。世紀末に芽生えた「ライフスタイルへの気づき」は今も進行中なんです。

アアルトのサヴォイベース。美しい揺らぎ

Alvar Aalto / Savoy Vase

 

北欧のものが多い店なんですど。フィンランドに一番魅力を感じますね。決して「かもめ食堂」の影響ではないんですけど。笑

アルヴァ・アアルトがデザインしたこのvaseは最初期のものです。現在のものとは違い、木型をつくってガラスを流し込んで成形されているので、こうしたでこぼこな独特のゆらぎ感が出るんです。今はもうほぼ見つからないですね。当時、彼が設計したレストランのために作られたもので、そのレストランの名前をつけて「サヴォイベース」と呼ばれていますが、最初の彼のスケッチには「サーミ族のスカート」という名前がついていたようです。少数民族に対する彼の眼差しというのがあったのですね。アアルトはフィンランドにいてヨーロッパ的な感覚を持ちながら、自分の地域の特殊性をしっかり盛り込んだデザインをしていたのはすごく先駆的だと思いますね。

 

ガラスの分厚さと、これでもかという感じの手作り感。木型は何度も使えないから。熱いガラスを流し込むと焼けちゃうから型が甘くなってくるんですよ。それによって外側のゆらぎがでてくる。予期せぬ美しさがつまっていますよね。ガラスの透明感も今のとは全然違うんです。これはもうオブジェですね。なんか入れたら格好悪い。ガラスの彫刻です。僕はこの「ふにゃふにゃ」が大好きなんです。

 

アルヴァ・アアルトは建築家で、彼が国際的に建築家として評価を受けたのがパイミオのサナトリウムなんです。今でも見学できるのですが、明るいんです。病院なのに階段が黄色なんです。病人にとって階段を上がるは苦痛じゃないですか。そこを黄色にしている、踊り場には寛げるような椅子がデザインされていたり、行き届いてる上に明るいし軽快だし。暗いものを明るくすることができるパワフルな人です。

 

パイミオのサナトリウムの紹介ページへ

 

マシュー・マテゴのマガジンラック。ユニークなフォルム

マシュー・マテゴのマガジンラックを手にする武末さん

Mathieu Mategot / Magazine Rack

 

マシュー・マテゴは1950年代にフランスで活躍したデザイナーです。パンチングメタルで作り出され、アーティスティックなものも多いのですが、やっぱり「使える」というのが前提なのです。このマガジンラックも使えますが、サイズも小さいし、マガジン、そんなに入らないでしょ。笑。床においても存在感ないし、

 

でも、オブジェとして置いてあげるとみんな「何これ?」と。「穴空いてるし、ひん曲がってるし、最高だね!」とか言ってもらえるんですよ。アートの匂いがぷんぷんしますよね。これは「JAVA」というシリーズのひとつで、なかなか見つからないんですが、ようやく見つけました。決してポストモダンじゃない。勝手にモダンになってるんですよね。フランスぽいですよね、しょうがない。笑。ある種の傲慢さも感じますよね。

 

■武末さんに選んだいただいたものはどれもチャーミングですよね。ひとなつっこい。みんな笑ってる感じがします。

靴のままの生活”を推進するスペース「ENOUGH」。たくさんの椅子たちが集うリビング

柄谷行人著 「柄谷行人発言集 対話篇」

柄谷行人著 「柄谷行人発言集 対話篇」

 

最後は、柄谷行人の本です。いろんな人と対談したものをまとめたものです。昔からぼくは柄谷さんに惚れていまして。ずっと読んでいるんですけど、いろんな人との対話なので、バラエティに富んだ話題が出てくるし、彼自身が書いたものより読みやすい。僕の好きな田中小実昌とか坂本龍一も出てくるし、多和田葉子みたいに、知らなくてもこの人ヤバいという人も対話を読んで興味を持つこともできる。
僕は柄谷さんにのぼせ上がってかれこれ30年ぐらいつきあってます。昔は酔うとずっと柄谷の話ばかりしていましたから。相当嫌がられてましたね。

柄谷さん、本人は批評家、って自分のことを呼んでいるんですけど、柄谷さんの本、基本的に難しい。笑。特に初期のはね。僕も挫折しっぱなしだったけど、時々、お!こんなこと言える人、なんで今まで知らなかったんだろう、っていうぐらい刺激的なこと言う人なんですよ。それはもう読んでもらうしかないんですけど、読むと元気出るんです。

 

■柄谷さん、読むならどれでしょう?

 

初期のはやめましょう。難解だから。笑。2000年代に入ってからのはオススメです。特に『世界史の構造』は未来への示唆が充満してます。

 

柄谷さんの言葉を借りて言えば、今の資本主義の世界の先に何があるのか。これからは物と貨幣の交換ではなく、シェアしあうこと。与えたら与え返さなければならない、そういう世界にならざるを得ないだろうと言ってるんです。あえて言えば社会主義なんです。北欧がそうなんですよ。税金は高いけど医療や教育、死ぬまでの保証をきちんとしてくれる。国民がそれを求めて勝ち取っているんですよね。国民が、一人一人、政府に対する要求を持つことになるというね。

 

デザインに興味を持ち始めたときに柄谷さんの本に出会ったのも必然かも知れません。柄谷さんの影響で、哲学も宗教も、自分をとりまく全てのものに対して反応したいと思うようになりました。そうすることでわからない自分というものを試そうとしている。例えば、目の前の椅子を見て「お前これをどう思う」と。

椅子は座れるアートです。座らなくてもいいし座ってもいい。椅子の座り心地は全て違うし、面白いです。アアルトの椅子には座り心地はないです。でもそれがアアルトの椅子だと思います。まさしく社会主義が生んだ椅子ですね。ラグジュアリーとは正反対だし、みんなが安く使えてある程度座り心地がよければいいと。

 

マリメッコのストライプのシャツもそうですね。僕も色違いで何枚持つんだろうと思ったんだけど、あれも社会主義の産物ですね。ユニフォームぽいけど、色は選べる。ストライプも手描きで少し揺らいでいるし、ガチガチじゃない社会主義のもの。

 

自由っていうぐらい実は不自由なものはないし、不自由なものの中にちょっとした自由をつくることがデザインだと思うんです。僕にはできないけれど、デザインされたものから、それを想像することはできる。”靴のままの生活”もそんな感じで始めたんです。

 

これら選んだものたちは、端的に言えば「これ、売れないんですよね」ってことですね。言い換えるとしたら「俺が死んでもこれ売っちゃダメだよ」ですかね。つまり僕はまだまだ社会主義者にはなれないなあ、ってことです。笑。

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