路上で似顔絵を描いて
お金をもらえる喜びを知った。
谷口:昨日からスタートしました山下良平個展「HOPE」の作品を前に、山下作品の魅力と、山下さんのこれまでの活動を丸裸にするトークをしていきたいと思います。
僕は山下くんとはずいぶん長い付き合いですけど。笹貫さんは原画を見るのは初めてですよね。
笹貫:はい、今回山下さんの作品を見るのは初めてですが、すごい迫力ですね。もう原画が到着した段階からすごいオーラを発してましたよ。チグニッタスペースのフィナーレ、今年最後の展示ですね。
谷口:山下さんは博多出身のイラストレーターとして、画家としてたくさんのお仕事をされて来たと思いますが、そもそものキャリアについてそのスタートから「山下ヒストリー」を教えていただきたいんですけど。
山下:きっかけは路上で、似顔絵なんですけど、道ゆく人の顔を描いたりとか路上販売をしていたんです。博多の天神と言う大きなバス停でした。芸能人の似顔絵などを広げて胡散臭い商売をしていました。笑。
学生時代、学園祭の模擬店とかで初めて似顔絵を出したんです。目の前の人を描くことで、ワンコインもらって。絵を描いてお金をいただける喜びを初めて知ったんです。
絵はずっと得意だったんです。この勢いで学園祭の後、すぐ路上に出ました、当時、似顔絵描きが珍しかったのか、路上ライブみたいな感じになって、目の前にお客さんがいて、周りにギャラリーがいて、描いた絵を見せて「できました〜」「ウォ〜」みたいな感じで。20年ちょっと前ですけど、夢のような時間が天神にはありました。いまでは法的に厳しくなってそんなこともできなくなってきましたけれど、それができた最後の時代だったと思います。天神はその頃、似顔絵とか占いとかアクセサリーとか、ちょっとしたマーケットみたいな感じでしたね。
それが九州芸術工科大学の3年生、4年生の頃でした。芸工大ではビジュアルデザイン全般をやってまして、僕は4年生で映画や映像の専攻でした。ですから学生時代は絵を描くと言うよりもビデオカメラを回しているイメージが強かったと思います。ちょっとしたミュージックビデオを作ったりとか、ショートフィルム作ったりしていました。
実はCMの会社に就職も決まってたんですが、似顔絵に出会ってしまったんですね。似顔絵は個人で制作するもの、映像は集団芸術なので、自分が暴走してしまうことがあるんですね。自分が周りのペースを乱してしまうことがあったりして。だったら絵の方が僕に向いてるのではないか、一人で自分の世界を構築していく世界の方がいいんじゃないかと感じたんです。楽しかったんですね。絵でお金をいただいたり反応をもらったりするのが。
谷口:美術の専攻をして絵を学ぶとか、デッサンをするというのではなく、アウトサイダー的に絵の世界に入ったのですね。
山下:そうですね。絵に関してはエリートコースではなかったですね。ほぼ独学です。自習型でしたね。自分で表現方法を模索しました。
谷口:とはいえ、似顔絵はパフォーマンスの要素も必要でしょ?そっくりに描くことはもちろんですが、面白くデフォルメしたり、お客さんとのやりとりや営業センスも必要でしょ?
山下:まずはお客さんが前に座ってくれないと話にならないので、看板とか作画例とかアイテム作りにすごくハマったんですね。芸能人とか有名人の絵をまず並べて、あとは飛び道具として、エアスプレーで描くパフォーマンンスを見せて、描き方を見てもらって楽しんでもらうことを重視してましたね。
谷口:聞くところによるとその「似顔絵」のコンテストでものすごい賞を獲ってるんでしょ?
山下:はい、アメリカというのは似顔絵のメッカで、年に一回全米から似顔絵だけで生計を立てているアーティストが集まる大会があるんですね。僕が参戦した時は、ラスベガスのホテルのホールを借り切って、そこで何百人のアーティストが1週間ぐらい、寝る時間も惜しんで、ひたすらお互いの顔を描き合うという。全米だけではなく、日本や韓国、アジア各地からも集まる世界大会に参加しました。いろんな部門があるんですけど、その大会で一番いい似顔絵を描いた「作品賞」という部門で1位になりました。
谷口:すごいですねー。それだけすごい賞をもらいながら「世界の似顔絵師、山下良平」っていまなっていないところが面白いよね。
山下:そうですね。絵で人物を表現するジャンルでそれなりの評価をいただいたことは嬉しかったですが、それだけで勝負しようとは思ってなかったですね。