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パンデミックに関する私的メモ



「Journal from the Cityは世界各国にいるChignitta contributersによる都市のレポート。」

今回は、2020年春に私たちが初めて直面したCOVID-19による「非常事態」の当時を、それぞれのシティから改めて振り返ります。


1960年代のビートムーブメント、その後に続くヒッピー文化をリアルタイムで謳歌したサンフランシスカンのシンシアは、私のビート文化指南役。アート、文学、音楽をこよなく愛する彼女は、現在はポートランドに居を構え、執筆やコラージュなど創作活動も旺盛だ。ジャーナリスティックな視点を持つ彼女が振り返るのはアメリカで最初の感染者が発生したシアトルの夜。アメリカ大統領選挙前に書かれた内容につき、人名や状況については当時のままです。(Junko Sasanuki)


 

シンシア・ロマノフ

サンフランシスコのデザイン&コミュニケーションの会社でクリエイティブ・ディレクターとしてキャリアを積む。長年住んだサンフランシスコから現在はポートランドに居を移し、ライター、編集、コラージュアーティストとしてクリエイティブな日々を送っている。

 


■ Part One


最初は、「それ」について心配する人はほとんどいませんでした。新しい厄介なウイルスは周期的に出現し、アメリカではその季節に最も流行するインフルエンザウイルスに対応するワクチンも用意されます。ですから、多くの医療従事者以外の人々が「インフルエンザウイルスの突然変異株」だと思っていたものが最初に報告されたときは、世間は過度に警戒していたようには見えませんでした。しかも、その新しいウイルスが発生した中国は、非常に遠い国のように見えたからです。しかし、この認識はすぐに間違っていることが証明されました。ウィルス感染が始まった武漢と、米国で初めて感染者が出たと報告されたシアトルの距離は、7,500 マイル離れた遠い国ではなく、わずか11時間のフライトで行き来できる距離だったのです。

私たち夫婦はその日、シアトルで週末を過ごしていました。その日とは、シアトルの病院ででアメリカで最初のコロナ感染症状が発覚した日です。その病院は私たちが滞在していたホテルからわずか数マイル離れたところでした。私たちは混雑した音楽会場に行き、何台ものUberに乗り、人気レストランのテーブルを待つ間、肩を寄せ合いながらウェイティングバーに立っていました。パイク・プレイス・マーケットの本屋さんやお店を見て回り、賑やかなホテルのロビー・バーでお酒を飲み、別の混雑したレストランでブランチを食べました。帰りは満席の電車に乗って4時間弱の風光明媚な車窓の景色を楽しみながらポートランドに戻りました。



■ Part Two


7ヶ月後の現在(2020年秋)、今まで当たり前であった日常活動のどれもが制約を受けています。COVID-19の最初の症例が 米国で報告されてから約2ヶ月後の3月中旬から、ある種の 監禁状態が続いていると言えます。この数ヶ月の間、世界は驚きをもって見守っていました 。そして、地球上で最も裕福で強力な国の1つであるアメリカ合衆国のリーダーは、パンデミックへの対応を台無しにし、 破滅的な結果をもたらしたのです。

COVID-19が日常生活に与える影響を考えるとき、個人的なことと政治的なことを切り離すことは不可能です。他の国々がウイルスの拡散を遅らせるために積極的な行動をとった後も、アメリカの指導者たちはCOVID-19が脅威であることを否定し続けています。他の先進的な国とは異なり、米国には、地域社会での発生に対応するための包括的な国家計画が整っていません。命を救う可能性のある情報は抑圧され、不必要な死に至らしめる誤った情報がソーシャルメディア上で拡散されているのです。


感染症予防の専門家や科学者は、国のトップから公に誹謗中傷され、科学者たちの専門知識は、「アメリカ経済を再び動かす」という政治的な目標と一致しないために侮辱されている。 米国が誇る感染症の専門家、共和党・民主党からも6代の大統領に渡り尊敬されてきた科学や医療のエキスパートは、トランプが効果も根拠もない「ヒドロキシクロロキン」という全く危険な「肺の漂白剤」治療法を推進している間に、「死」に脅かされ続けているのです。

トランプに後押しされて、国民のかなりの人々が、「公共の場でマスクを着用することは、個人の自由に対する受け入れがたい強要」であると考えており、現在もマスクを義務付ける国家的な命令はまだありません。地方の指導者が世界保健機関(WHO)が発行したガイドラインに忠実であるのに対して、米国のリーダーは拒否をしたことで、すべての人の命を危険にさらす大規模なウィルス感染は州境を越えて爆発的に広がり、ウイルス感染による数千人の死者が出ています。



■ Part Three


米国はCOVID-19の感染症と死亡者数で世界をリードし続けています。ほとんどの国が米国との国境を閉鎖しているのも不思議ではありません。だから私たち、3億3000万人のアメリカ人は家に留まっています。

いまの「家庭」とは、アメリカの子供たちのほとんどがコンピュータの画面の前で授業を受け、友達や先生から隔離されている場所です。その家庭は、幸運にもまだ仕事を持っている人たちが、家族の世話をしながら遠隔地で仕事をしている場所です。他方、トランプの共和党は適切な失業給付金をパンデミックの経済的荒廃のために仕事を失った1650万人の国民に提供することを拒否し、その間に「家」は立ち退きや差し押さえのために失われているのです。


ミネアポリスに住む成人した私たちの子供の一人がCOVID-19で入院した時、私たちは家にいました(ありがたいことに、彼は順調に回復しました)。横浜に住む夫の最愛の友人が死の床に就いた時も、私たちは訪問もできずに家にいました。サンフランシスコでは昨年12月以来、家族とは会っていません。何ヶ月にも渡り、音楽イベント、映画、博物館、美術館、アートギャラリー、本屋、バー、レストラン、友人宅、食料品店などにも行っていません。ドナルド・トランプの米国では、これらの活動のどれもが安全ではないからです。

私達は幸運です。私たちが住むポートランドはリベラルな都市で、マスクのコンプライアンスが行き届いており、感染率が国内で最も低い都市の一つです。この二つの事実は無関係ではありません。多くの人が苦しんでいる生命と生活の驚異的な損失に比べれば、私たちの社会的、感情的な犠牲は些細なものです。私たちはまだ、「COVID-19」で愛する人を失ったり、病気になったりしておらず、収入は軽度の影響に留まっています。私たちの4人の子供たちは、成人していますが、全員がまだ働いています。医師の夫は医療データベースにアクセスし、公平な調査を行い、家族がリスクに関する情報に基づいた意思決定を行うのに役立っています。



自分自身や他人への許容できないリスクがあるからこそ、私たちは家にいて、恐怖と怒りと退屈を繰り返しています。「恐怖」、それはトランプの嘘と100年に一度の致命的なパンデミックを否定し続ける国が、国民一人一人を現在進行形で危険にさらしていることに対する恐怖です。「怒り」、それは公衆衛生についての決定が、科学ではなく政治的な考慮事項によってもたらされていることへの怒りです。「退屈」、それは何ヶ月も家から数マイル以上は出かけることなく、市販のイースト菌も入手困難ですし、天然酵母のサワードゥ・ブレッドを作ることで気を紛らわせるには限界があります。

パンデミックを終わらせるためには、安全で効果的なワクチン以上のものが必要です。それは、私たちが命をかけて信頼できる選出されたリーダーが必要になるということです。 その無能さと悪意で、世界で最も高いCOVID-19の死亡率をもたらした無原則なチンピラを執務室から追放するために、私たちアメリカ人は11月3日に投票箱に集団の怒りを投じます。これは、私たちが恐怖と退屈を超えて生活を取り戻し、そして未来に向かって前進することができる唯一の方法なのです。 世界が注目しています。私も気を抜かないように頑張らなきゃ、です。





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