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広州、僕とこの街と世界。もしくはあなたとあなたの街と世界。



香港の北西部にある広大な港湾都市、広州。北京、上海、深圳とともに四大都市に数えられる一大経済都市です。現地でアパレル業や写真家として活動しながら、クラブイベントの企画やグラフィックアートも制作しているinokenからのレポートが届きました。

思えば2018年1月、まだ現地にいたYo-sukeが企画し、谷口とさくらいはじめがアナログレコードを抱えて広州に上陸。その後、蘇州〜上海〜廈門へと続くクラブパーティ「Urban Classics」の記念すべき第1回目を行ない、250人を超えるオーディエンスで盛り上がったのも懐かしい思い出です。

2021年春、コロナ禍を経て少しずつですが平常を取り戻しつつある街と仲間たちのいまをInokenがレポート。僕たちがイベントを行った「BRASSTON」をはじめ、クラフトビールの美味い「Rozz-tox」、名物猫の店主がいる「臻音堂」など、広州のイケてる音楽スポットの紹介記事としてもお楽しみください。また、広州いきたいなー。


 

Inoken

新潟出身。ショップディレクター兼フォトグラファー、グラフィックデザイナー。大学時代に韓国ソウルで二年間を過ごし、留学生仲間たちとのごちゃ混ぜな多文化に触れる。大学卒業後は広州にてタオバオ黎明期にアパレルショップを開業。そこから広州で濃厚な10年間を過ごす。アパレルの企画販売の傍らバンド『NANAME STEP』やDJクルーの『Soul Funk Jazz Brothers』などに参加。 2019年から自身のアートプロジェクトを進める。




 


僕とこの街と世界。もしくはあなたとあなたの街と世界。 この三つの関わりかたがガラリと変わってしまったのは新型コロナウィルスのパンデミックなのは言うまでもない。 一年前。最初に感染爆発が起こった武漢の中継映像は、人々を震撼させた。ある街では人々は移動を制限させられ、今まで当たり前にできたことができなくなった。昨日まで仲の良かった隣人の咳に眉をひそめながら、誰かが感染すれば犯罪者のように責め立て、その家族の情報をコミュニティの中に晒し、まるで“お尋ね者”のように扱った。ある国ではウィルスの発生源をめぐり人種差別にまで発展し、時には暴力さえ横行した。どんよりと曇った鈍色の空の下、口元を覆われた人々が背中を丸めながら日々を超えていった。人類史に間違いなく大きな痕跡を残した2020年。希望を見出せず、耐え難い日々を耐え忍んだ人類はこの先どのような道を歩いて行くのだろうか…… と、物騒な事をつらつらと書きながら、僕はガヤガヤと騒がしい周りの席を負けないくらいの声で店員さんを呼ぶと、空になったポットにお湯を注いでもらう。テーブルに並んだ色とりどりの蒸籠からプリプリの焼売(シューマイ)を口に放り込み、お猪口のような小さな茶碗にそそいだ熱々のプーアル茶を飲み干す。食は広州に有り。やっぱり美味い。


広州を象徴する料理であり、若者から老人まで幅広い人に愛される点心。テーブルはお喋りに花が咲く。

2021年3月。

僕の住む広州市はだいぶ暑くなった。毎年3月末までには本格的な夏が訪れ、11月ほどまで夏日が続く広州。中国の第三都市にしてはとてもゆっくりとした時間が流れる街で、地元の人々ものんびりと飲茶(ヤムチャ)をお喋りと共に楽しむのが大好きだったりする。この街に10年住んでいる僕も、今じゃすっかりこのスタイルが気に入ってる。そんな広州の稲香という老舗の点心屋さんで、冒頭の物騒な事を書いていたわけだ。

最近日本のニュースサイトで目にする世界中のコロナの暗い報道に反して、ここではほぼ元の生活に戻ったといっても差し支えないほどになってきている。世界中が大変な時期である今、最初の感染爆発が起きた中国が早期に抑え込みに成功したというのはなんとも皮肉な話だ。ということで、この街で今何が起きてるか。コロナウイルスで不安だらけの世界の中で、この街はどうなのか。簡単にレポートをしていきたい。

2019年年末に遡る。

僕は年末に親しい友人のYo-sukeさんたちと年越しイベントを友達のバーで行っていた。もちろん、コロナのコの字も見当たらなかった当時は、たくさんの人が来てくれて最高の年越しパーティーが出来た。その翌日、日本のニュースサイトに『新型コロナウイルス、武漢で発生か』という小さな記事が出ていた。その時は僕も、まわりの友人も、この街も、気にも留めなかった。そして僕は最高の年越しの数日後、少し早めの春休みを日本と韓国で過ごす為に移動する。

一ヶ月ほどバケーションを満喫していたのだが、その頃には新型コロナウイルスは至る所で感染範囲を拡大していて、既に各地でマスクが足りない状況になっていた。さすがにこれはヤバそうだということで、数日予定を切り上げて中国に戻ることにした僕だったが、約一月ぶりの中国はなんとなく元気がなかった。もちろん神経質になっているというのもあるだろうけど、それよりも目に見えない何か良くない事、そう、不安みたいなものが、街中に溢れてるような気がした。なんだかずっと明けない夜の中にいるような感じだった。

家に帰るとすぐにマンションの管理所からマスクと防塵メガネをつけたスタッフが来て、14日間家から出ないようにと言われる。隔離だ。ただその時はまだ強制力が強くない自主隔離だった。家から出ようと思えば出れたけど、ガードマンの立っているマンションのゲートは厳しいチェックがされていた。だから14日間外には出なかった。



隔離期間、ベランダから毎日外を見て、街の静けさに少し不安になった。

この街との関わりを断ち切られた14日の間に、色々と情勢は変わっていた。後から入国してきた人の隔離は強制力を持ちはじめ、どこに行くにも検温をされるようになる。一番大きく変わったのは、個人の渡航歴や滞在箇所の追跡をする健康码というアプリ(正確に言うとWeChat内のプログラム)が国中で導入されたことだ。これはどの施設に入ったか、どのレストランで食事を取ったかまでも追跡されるという、なんともプライバシーゼロな代物なのだが、入店時にその健康码のスキャンをしなければ入れてもらえないので、仕方ない。

その後、しばらく街中が神経質になりながら、政府の言葉に従い、少しの不便を我慢して生活を続けると、国内感染者は徐々に減っていき、数ヶ月には広州市の新規感染者を0にまで減らす事ができた。そんな中、僕とこの街は徐々に普段の生活を取り戻すことになる。

長期休業に追い込まれてた行きつけの餃子屋はふたたび営業を再開できたし、取引先の工場も無事に再稼働した。今まで再営業ができなかった友達のバーも順調に活気を取り戻し、大音量で聴く音楽に飢えていた僕たちは、酒を片手に踊りまくった。僕も隔離の間に少しだけレコードを収集してたので、みんなとシェアしながら踊りまくった。その空間はまるで、口元を覆われた人々が背中を丸めていたあの日々が無かったかのような、そんな不思議な空間だった。


親しい友達であり広州では著名なDJであるJASCERは、コロナが落ち着いてきてから昼夜問わず積極的にイベントを開催して広州をもりあげようとしている。


僕の住む街は普段の喧騒を取り戻し、僕らもコロナ以前のような(とは言ってもまだコロナ対策はしているが)日常を取り戻した。広州の今はどうなってるかと言うと、冒頭で書いた通り、活気あふれるレストランでのんびりと飲茶を楽しめるまでになった。ここ最近では広州の古き良き街並みが広がる東山口で新しいカフェやレストラン、セレクトショップ、アートスペースが続々とオープンするなどして、感度の高い人々がカルチャーシーンを積極的に牽引するような活気が溢れている。コロナの悲しみを吹っ飛ばしそうなほど、今この街は勢いはすごい。ミュージックシーンは、流石にコロナ禍の中では海外のアーティストが来れないので、国内のアーティストのライブばかりになっているらしい。国内のアーティストにとってはなかなかいいチャンスなのかもしれない。


2020年冬。東山口のとあるセレクトショップ兼ギャラリー。アパレルやアクセサリーを主軸にしたショップの一角にはアーティストの展示スペースが設けてある


広州は規模の大きな都市ながらも、上海や北京に比べると、音楽イベントの多様性がすこし弱い感じが否めない。そんな中、多種多様なイベントを継続的にしている、僕の大好きな二つの場所を紹介したい。

一つ目は大型のイベントにも対応し、また音楽イベントに限らず、アート作品のエキシビジョンや先進的なパフォーマンスアートの公演もするRozz-Tox289。

平日は基本的に大型フロアを開放せず、バースペースのみとなるが、そこにも二つのDJブースが設置されていて、不定期だが平日でもDJが心地よい音楽をかけてる。さらに、ターンテーブルを開放して音楽好きな人がいつでも来てプレイできるイベントOPEN TABLEや、自分の楽器を持っていき、見知らぬ人たちとセッションのできるJAM SESSIONなど様々なイベントを開催し、みんなを楽しませている。ここのオーナーであるPhilipも僕の最高な友達の一人で、コロナ前は一緒に日本で遊んだり、広州でも朝まで飲み明かすくらい仲良くしてもらってる。


さまざまなイベントで来客を楽しませてくれるRozz-tox289。

またRozz-Tox289の分店である五羊Rozz-Toxでは、常時30種類近くのクラフトビールを提供し、また不定期に音楽イベントも行なっている。数年前に開催された10人を超える日中合同のDJ陣で店中を踊り狂わせた『VINYL HEROES』に僕も参加させてもらったのは、本当にいい経験になった。ちなみにここのビールは常時新しい銘柄が入るので、毎回新しい味に出会える楽しみがある。僕はほぼ全種類飲み尽くした。僕はここで飲めるAngry Alien Double IPAがめちゃくちゃ好きだ。隣の日本料理屋『酔拳』でツマミを頼んでRozz-Toxで飲むというのもオススメ。


五羊Rozz-toxにて。隣の酔拳のカレーをテイクアウトし、クラフトビールといただく。右は不定期イベントの図。

もう一つは過去に『Urban Classics』を開催し、広州中の若者を虜にしたBRASSTON。この場所はThat’sの2020年のPizza of the yearを獲得したほどの極上のピザに、定期的に一新されるカクテルメニューがとても人気だ。特にピザは賞を受賞するのも納得のクオリティ。本番イタリアから買い付けた本格的な釡で焼き上げられるピザは、毎日食べたくなるほど病みつきになる。こんな風にピザ推しだとイタリアンレストランと勘違いしてしまいそうだが、Brasstonは音楽イベントにも大きなこだわりがあって、先に述べた第一回『Urban Classics』や、その他にも多様なイベントも催してる。特に週末にはジャンルレスで良質な音楽を提供し、来た人に心地の良い空間を提供している。ひとたび音楽がかかれば、ピザを片手に踊る人もいるし、九時過ぎにはミラーボールが回転しはじめ、完全にダンスホールに変わる。僕InokenとYo-suke、オーナーであるChongと立ち上げたDJクルー『Soul Funk Jazz Brothers』のホームグラウンドでもあり、思い入れの強い場所だ。 https://www.instagram.com/explore/tags/brasston/?hl=ja



9時過ぎのBrasstonはみんな踊りだす。

音楽の話ばかりになって申し訳ないが、もう一軒だけ紹介したい場所がある。臻音堂というレコードカフェだ。カフェという場所柄、昼間からレコードで良質な音楽をかけてくれるのだが、カフェだからと言ってボサノヴァやジャズ一辺倒とは思わないで欲しい。ロックやファンクもかけてくれて、音楽好きには最高のカフェなのだ。そこで毎回とても美味しいコーヒーを淹れてくれるLisaは僕よりもずっと音楽に通じているし、オーナーのMongはいつも丁寧にレコードを磨いて、わかりやすいライナーノーツを付箋に書いている。もちろんここのレコードは購入する事もできて、気になるレコードがあれば視聴もさせてくれる。コーヒータイムと同時にディグなんて、贅沢の極みだとしみじみ思うのだ。それにイベントも開催してて、各地からDJが駆けつけるほど。思い出に残っているのは、ラジオ形式で音楽を紹介しながらかけるイベントに参加させてもらったこと。これまたYo-sukeさんと一緒に参加させてもらったのだが、好きな音楽をシェアしてみんなで楽しむというスタンスは、一番原始的な音楽の楽しみ方だと思う。僕は住んでる場所が少し遠いからあまりたくさんは行けてないけど、毎回行くたびに大好きなケニアのバンドドリップと、大好きな音楽を聴けるんだから、やはり最高の場所なのだ。 Rozz-ToxにBrasstonに臻音堂、この街にはこんなに素晴らしい場所があると思うと、やはり飲茶や点心だけの広州ってわけじゃない。


臻音堂でのラジオ形式イベントの一コマ。コーヒーを飲みながら自分の好きな音楽を共有するのはアットホーム感がある。

アパレルの仕事やフォトグラフ、グラフィックデザインをしている僕は、今まで仕事とは別に作っていたパーソナルなグラフィックアートに本腰を入れる事に。こんなタイミングで本格的にやり始めると「コロナ禍でどっと増えた駆け出しYouTuberみたいだね」などという言葉が飛んできそうだけど、まあいいじゃない。コロナはとても不幸でネガティブなものだけど、何かをはじめるキッカケになったなら、その点はもしかすると少しだけポジティブな要素と捉えてもいいのかもしれない。

幸いな事に、周りのサポートのおかげで、色々な場所で作品を飾らせてもらっている。先ほど紹介した広州屈指のイベントスペースであり、最高のバーでもあるRozz-Tox289や、蘇州に新たにオープンしたレコードバーのMoonchildにも展示してもらっている。それからアムステルダムのPieza Artというサイトから声をかけてもらい、販売させてもらっていている。みなさんには感謝しかない。主に作品はInstagramの作品用アカウント@innokentius9にポストしている。最近は他のプロジェクトに時間を取られてあまり更新は出来てないけど…。




Pieza Artのポスティング

それから上海の友人たちと「上海の古北地区に新しいカルチャーを作ろう」とNEO GUBEI CULTUREというスローガンを掲げ、『GARDEN』というサンデーアフタヌーンパーティーを定期開催している。まだまだ始めたばかりだが、毎回200人近くの多種多様な年齢層と世界各国の人たちが遊びに来てくれて、楽しい空間になりつつある。これからももっと色んな人を巻き込んで続けていきたいと思う。こうして新しい繋がりがどんどん増えていくのは本当に楽しいし、やるからには爪痕を残せるくらいやりたいなあ。


上海AOにて開催したGARDEN。午後3時から夜11時まで楽しい空間を共有した。

これからも個人のプロジェクトも続けながらも、ワクワクする事をしていきたいと思う。きっと僕一人では何もできないから、友達や賛同してくれる人と一緒に作り上げれたらなと想いを巡らせたりしているのだ。そこにみんなが集まって、楽しんでくれれば最高だ。まだまだコロナが猛威を振るう世界の片隅で、僕はそんな事を漠然と夢想している。また落ち着いたら日本で、広州で、または上海で乾杯しましょう。




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