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Interview -さくらいはじめ Hajime Sakurai



11月19日からスタートした、さくらいはじめ展覧会「Hip & Square」のギャラリートーク。 イラストレーターとして、アーティストとして渾身の個展が開催中です。11月20日に会場で行われたギャラリートークをテキストにまとめました。さくらいはじめのこれまでとこれからがわかる内容になっています。動画と共にお楽しみください。


 

さくらいはじめ

京都工芸繊維大学大学院修了。イラストレーター/グラフィックデ ザイナー として、広告・ポスター・雑誌・レコードジャケットなどのアートワークを手が ける。近年ではNONA REEVES ジャケットアートワーク、森永DARS× niko and…コラボパッケージデザイン、FM802 “MEET THE WORLD BEAT” メインビジュアルなどを担当。最近では、タイ、中国、台湾などアジア各国でのクライアントワーク、アートフェア出品など多数。
Instagram▶︎ @sakuraihajime Twitter▶︎ @sajkuraihajime

 


さくらいはじめギャラリートーク(11.20)

「アーティスト」と「イラストレーター」。 このバランスのなかで絵を描いているのではないかと思います。


谷口:chignitta spaceにようこそ!チグニッタ谷口と笹貫です。さくらいはじめさんを迎えての「Hip & Square」スタートしましたが、大好評です!さくらいさん、どうですか?

さくらい:はい、僕はホンマに、今回かなり挑戦的なことをやらせてもらってると思ってるんですけど。ここ2、3年谷口さんからは「大きな作品を作れ」と指令を出されていたのを頑なに拒んでいたのですが。というより自信がなかったのもあるのですが、2020年に予定していた展覧会がコロナで全滅になってそのぶん、今年に4回個展してて、3月に福岡、6月に東京、9月に京都とやってチグニッタに至ってるんですけど。2020年のブランクがあったせいか、今年好調でして。笑。作品もたくさんお買い上げいただいたり、手応えも感じていたので、今回いままで言われていたデカい作品に挑戦してみようと。今でも作ってて「こんなデカい作品日本で売れるのか」って思ってて、冒険というか挑戦というかバクチというか。ほんまにやらしい話なんですけど、この展示のための準備に経費が50万以上かかってるんですよ。笑。ほんまの意味でもバクチでもあって。開催に至ったんですけど。どうですかね。

谷口:いいんじゃないですか?笑

さくらい:これだけ言わせて「いいんじゃないですか?」だけですか?笑

笹貫:思った以上にすごくて、会場に入った時からもう「イエーイ」ってなって、ものすごくテンション上がって。すごくかっこいいです!さくらいさん、本当に必死のパッチでがんばりましたもんね!褒めすぎ?

さくらい:褒めてもらって伸びるタイプなんで。ありがとうございます。

谷口:さくらいくんとはもう15年ぐらい付き合ってて。何度か変遷があったと思うんだけど。そもそも出が「モッズ」っていうのがややこしいんですよ。モッズの人だけですよ。「モッズ」をやめるとか、「モッズ」的には、とかいつまでも口にするのは。

注)Mods(モッズ) とは、1950年代後半〜60年代中頃にかけて、ファッションと音楽をこよなく愛したイギリス・ロンドン近郊の若者たちのスタイルの総称。

さくらい:そうですね。僕の中には「モッズ」からはじまる「スタイル」への執着というのが常にあって、「そのスタイルが自分にとって合ってるのか、そうでないのか」「どう自分がアプローチしているのか」というのを無駄に意識してるんですよ。その意識というのは他の人にとってどうでもいいことなんですけどね。

僕ね、谷口さんに15年前に言われて無茶苦茶覚えてるのが「渋谷系がリバイバルしない限り君はブレイクしないよ」って。笑。めちゃ印象に残ってるんですよ。あのときの谷口さんの言葉を思い出すと、何気なしに15年後の予言をしてたんじゃないかと思うくらいです。

注)渋谷系またはシブヤ系、もしくは渋谷系サウンドとは、東京都の渋谷を発信地として1990年代に流行した日本のポピュラー音楽のジャンル、ムーブメント。1990年代中期から後期にかけて栄えたファッションスタイルを指すこともある。

谷口:今渋谷系、リバイバルしてるしねー。さくらいブームも来てると。笑。そのあと、僕の印象では、永井博さんとの出会いも大きかったでしょ。

さくらい:そうなんです。その時、永井さんに「作家性だすなら肉筆じゃないとダメだよ」って言われたんです。そもそもグラフィックデザインやってて、その延長でイラストレーターやり始めた感覚があったので、デジタルでやることが普通だったし、アートに対しての意識もなかったんですが、その辺りが大きく変わってきましたね。自分がどうやったらアートに寄れるのかなどわからないからとりあえず手描きの作品出してみようとかとりあえず展示をやっていこうという行動を先にやってきことで掴めてきた感覚があります。 あと、イラストレーターはオーダーがあって仕事があるので、それにどうやって答えるかというのがあるわけだけど、こういった展示というのは頼まれてないわけだから、自分の好きなものを描いてそれに対してお客さんが気に入ってくれるという話なんですけど、とはいえ、どういうものがお客さんに受けるだろうか、やっぱり売れなあかんと思うので、完全にお客さんの目を度外視するということにならないと思いますね。 ですから僕の中ではきっぱりと「アーティスト」と「イラストレーター」というのを分けて考えられないというか、このバランスのなかで絵を描いているのではないかと思いますね。


タイ、バンコク「ART GROUND」での作品展示(2018)


バンコクの4日間で体感したこと。


谷口:笹貫さんはイラストレーターとしてのさくらいさんとの仕事を数多くされていますし、海外でのアートコーディネーションをしているなかでさくらいさんの仕事の仕方などをどう思われてますか?

笹貫:さくらいさんとはバンコクのアパレルのクライアントワークを2年ぐらいさせてもらってるのですけど、さくらいさんはプロだなと思うんですよ。相手が言うことを察知して、フィードバックにもすぐに対応できて、着地点が明確で、阿吽の呼吸で仕上げてくださる。だから仕事が早いし、無駄な動きがない。あと「さくらいさんに描いてほしい」というラブコールがすごいんです。ご指名の仕事があるというのがすばらしいですよね。 そのきっかけは2018年に一緒に行ったバンコクのアートフェア「ARTGROUND」ですよね。

最初、さくらいさん、びびってましたし。笑。実際、行くまで情報がなかったし、最初からずっと浮かない顔をしてたけど、結果、大成功でしたよね。

さくらい:本当にまったく何もわからなかったし、とりあえずアートフェアに出すと言うことだけがわかってたけど、どうしたらええねんと。

笹貫:とはいえ、手探りの中、展示したものがバンコクの人の心をぐっと掴んで、ファンが増えて。いわゆる個人顧客もそうですが、仕事として観にきた人も「この人いいな」と思ってもらえて実際、仕事に綱がってることが大きいですよね。

さくらい:あのバンコクの4日間は大きかったですよね。予定調和でないことに対して積極的に行けるようになりましたね。あれ以来、自分がいかに英語でコミュニケーションをとるということが大事かというのに気づいて、SNSも英語を併記して発信するようにして、全然書けないけどもまず書こうと、伝えようとする気持ちが大事と言うことがまずわかって、それやり始めてから海外のフォロワーが増えて、今僕のフォロワーの比率が、東京、大阪、福岡の次にバンコクなんですよ。

谷口:それすごく大事な話!チグニッタで展示する人のセルフプロモーションという話を毎回していて「アーティストのブランディング」というのがチグニックの大きなテーマなんですけど、SNSの使い方、仕事の仕方とか、海外からの反応などが変わりましたか?

さくらい:特に海外からの声のかかりかたと言うのが、笹貫さんにお願いしているのはクライアントワークなんですけど、展覧会の作品などで僕がインスタに画像を上げると「この作品、買えますか」とか「海外発送してもらえますか」という問い合わせが来るので、いままで日本のイラストレーター が群遊割拠するこの業界の中でどうやって勝ち残っていくかってことばかり考えていたのですけど、ちょっと世界に目を向けるだけで自分の道っていうのがすごく広がるなあと。具体的に何をするのかというのがわからなくても、英語で発信していくだけでも多分、日本人の気質だと思うんですけど「この英語大丈夫だろうか」「文法おかしかったらどうしようか」とか、最初は気になってたんですけど、それよりもまず、自分がSNSを見る側だとすると、「この人日本人だけど英語で書いてるんや」って思われるだけで一つきっかけになるだろうと。それはSNSで発信する上で大きかったと思っています。

谷口:それで反応があるとやる気出るよね。

さくらい:そうですね。僕いまだに直接会って英語で会話するのは苦手なんですけど、メールだとコミュニケーションとりやすいんですよ。翻訳ソフトもあるので、案外ハードルは高くなかったんだなと思うんですよ。


中国アートフェアでのさくらい作品展示風景

慎重で几帳面すぎる日本人に、アジアのセンスは必要なスパイス


谷口:その後、さくらいさんは中国のギャラリーからも展示のオファーがあって、海外ではデカい絵が要求されるでしょ?現地のアートフェアの写真を見てびっくりしたんですけど、村上隆の絵の横にさくらいはじめの作品がどーんと並んでて笑、その風呂敷の広げかたもすごいと思うし。

さくらい:何もかもデカくて、雑なんですよ。笑。でもその雑さが、臆病で慎重で几帳面すぎる日本人には必要なスパイスなんじゃないかなと思う気もしますし。

谷口:それこそ4年前まではパスポートももってなくて、飛行機の乗りかたも知らなかったさくらいくんが、みんなで廈門にいったとき、一人でトランジットして北京に入る、って言ったときはすごいなとおもいましたからね。で、飛行機乗るギリギリまで絵の構想練ってるってとこも巨匠!って思った。笑

さくらい:谷口さんそんなことではダメって言ってましたやん。笑

谷口:そうそう。デカい絵を自分で描くなと。それこそサイズとデザインを指定して、現地のスタッフに描かせたらええねんって言ったんです。最後にサインだけしたらええねんって。

さくらい:実際、今回このサイズを自分一人でやって完全に限界を超えてしまったんです。逆に言うと、この展示で限界を超えたということは自分一人ではこれ以上無理ってことになってくるんで、それだと今が天井だってことになるから、谷口さんがいうように自分一人じゃないやり方っていうのも考えないととは思ってます。

谷口:アジア各地に「スタジオさくらい」つくったらええねん。例えば今後、中国で大きな個展のオファーがあって、ギャラリー5部屋分の作品作って、一つは50メートルの大きな絵を納品してってリクエストされてもできないじゃんって。

あと、僕は博多の展覧会の時、さくらいに「絵の中にサインを入れるのをやめろ」と言ったんですよ。端っこにね、かっこいいサインをいれるの。あれがイラストレーターの最たるものだと思ってて、あれをやった時点でイラストになるから。今回それを守ってくれて嬉しいなと。でかいサイズとサインなしをオーダーしたんですよ。

さくらい:そうですね。前回の京都の展示ぐらいから表にサインをなくしたんですけど、実際、そのサインというのも自分のスタイルとして入れなあかんと思っていたんですけど、実際絵の邪魔になってたんですよ。サインを入れる前提で絵を構成することでなんか無駄な作業をしていることがわかってずいぶん楽になりました。

谷口:デザイナーの癖やねんな、あれ。どれだけ凝ったサインを作るかっていうのもどれだけ作品の邪魔になってるかというのを僕はずっと言ってるんだけど。それが作家としての次のステップだとおもってて。あれ?レコードの話をしようと思ってたのに随分真面目な話になってしまったね。笑



北京で制作した大型作品を手に

「HIP」と「SQUARE」を座右の銘に。


谷口:じゃあ、レコードの話ね、今回、アーティストさくらいはじめとして「HIP & SQUARE」というタイトルの展覧会で、作品にレコードジャケットをモチーフとして入れることについて。これはもう作家でありDJであるさくらいならではの表現ではないかと思うのですが。選盤をすることで自分のテイストを出すという、それはただ60年代ファッションの絵を描いていたさくらいとは違うアプローチになると思うのですが、レコジャケを絵の中に入れて表現したかった目的は何?

さくらい:レコード好きというのは前提にあって、僕の作品は近年、女の子をモチーフにすることが多いし、自分のアイコンだと思っているのですが、一方で自分のバックボーンになっている「スタイル」というものがあるので、どこかでそれを反映して、そこでも共感してくれる人に自分の作品を好きになってもらいたいという気持ちがずっとあるんですよ。 今回チグニッタで展覧会をするにあたり、そういう僕の背景とか経緯というのは、全部谷口さんがわかっているので、「なんでレコード描いたのか?」なんて無駄な説明もしなくていい距離感もあって。 6月に東京のVOIDというギャラリーも、オーナーが小田島等さんという音楽通の人なので(サニーディサービスのアートディレクターでもある)そこでの展示がとても好評だったので、2回目を、あの時と違う見せ方でやりたい!と思って、同じタイトルで、レコードと女の子をモチーフにしたんですけど。

笹貫さんが今回の展示のプロモーションで「HIP」と「SQUARE」について書いてくださったんですが、これはもともと、和田誠さんがある本の中で60年代当時のイラストレーション黎明期の「HIP」と「SQUARE」について書かれていたのです。「HIP」というのは流行であり、レコードというのは僕の中で「SQUARE」な感覚として持ち続けていたものであり、でアートを表現するなら、アウトプットは「HIP」にいきたいなという気持ちがあって、この二つの言葉をこれからの座右の銘にしていこうと思っているんです。


HIP & SQUAREなレコード「Chris Montez / The More I See You」(1966)

今日はレコードも何枚かこのトークのために持ってきたんですけど、例えば60年代の「クリス・モンテス」のこのレコード。ジャケットだけ見たら、後ろに写ってる女の子たち、メンバーみたいに見えるのですが、こんなメンバーいてないのですよ。笑


HIP & SQUAREなレコード「Miles Davis / Miles Ahead」(1958)

「マイルス・デイヴィス」のこのレコード「MILES AHEAD」も当然この女性がマイルスってわけじゃないんですよ。もちろん。


HIP & SQUAREなレコード「Laurindo Almeida / Acapulco 22」(1963)

谷口:このジャケットってさくらいくんの展示のイメージとすごく繋がってくる世界ですね。

さくらい:こういう感覚のジャケットは、60年代にはたくさんあって、女性を「HIP」なモチーフとして取り上げるのがポップアートの背景であるのと同時に、当時のキーワードだったのではないかと。僕はずっとなぜ女性モチーフで絵を描いていながら、これまでずっと説明することが難しかったのですが、この女性モチーフのジャケットがすごくしっくりきたのです、このテイストが自分の作風として落とし込めているような気が気がするのです。



…話はまだまだ続くのですが、絵の解説をくどくど続けるのも「HIP」じゃないと思うので、みなさまにはぜひ会場で実際の作品をご覧いただきたく。会場でお待ちしています!


sakurai hajime Solo Exhibition “Hip & Square” 個展 


■会期:2021年11月19日(金) ~ 12月5日(日) ■時間:13:00 – 19:00 / 入場無料 / 定休 月曜日 ■会場:chignitta space (チグニッタ・スペース) ■住所:大阪市西区京町堀 1-13-21高木ビル 1 階奥 ■内容:絵画作品の展示販売、グッズ販売 ■作品についてのお問合せも受け付けております: info@chignitta.com

(最新の情報はchignitta Instagram @chignitta で更新します)




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