petit à petit – 3 「 アトリエ探し、そしてブリコラージュ リノベーション 」
- 谷口 純弘
- 2021年6月30日
- 読了時間: 5分
更新日:2023年1月31日

2020年秋にアーティストの夫とともに活動拠点をフランスに移したakari. 異文化での暮らしは日々奮闘と発見の繰り返し。ましてやコロナ禍により厳しく制限された生活の中。Journal From The City of Parisでは、akariが見出す日々の暮らしを綴るエッセイ “petit à petit”(プティ・タ・プティ)をお届けします。

akari
国内・海外にてインスタレーションやアート空間をプロデュースする他、様々な企業のブランドイメージアップや販売促進のディレクションを手掛ける。 「コミュニケーションをデザインする」をテーマに、企業パーティやイベントを企画。人が集う場、会話・対話する場をプロデュース。 2012年よりダンボールで作るパーティ空間「PAPER PARTY」をデザインし、新たな紙の可能性を発信。2015年には自身のライフスタイルブランド「by akari」を立ち上げる。近年は、ニュージーランド大使館やイタリア文化会館主催のパーティー空間プロデュース、FIT(ニューヨーク州立ファッション工科大学)での講演や台湾のマリオットグループホテル“Renaissance Taipei Shihlin Hotel”のアートワークを手掛けるなど、インターナショナルに活動中。2020年渡仏。
Links: akari._.ogawa
episode 3 「アトリエ探し、そしてブリコラージュ リノベーション」
渡仏後しばらくは10区サンマルタン運河近くのかわいいアパートに住んでいた。エレベーターがない最上階の6ème étage。こちらでは1階を0階とカウントするから実際のところは7階。朝パンを買いに行ったり、毎日の買い物やゴミを出すだけでもこの7階への階段を登らなければならない。マスクをしてゼーゼーハーハー言いながらドアを開けるのが日課だった。
忘れ物をした時にはもう、諦めるしかなかった。自分か夫のどちらかが出かけた時は、細い階段の中心部をうまく狙って7階から下まで落とすのだが、だいたい失敗する。足腰が鍛えられる日々、それでもこの小さなアパートから見えるMagenta通りの景色が大好きだった。毎朝コーヒーを飲みながら、夕暮れにワインを飲みながら、愛犬を抱っこしながら、この小さな窓からの景色を眺めたこのアパートで最初の冬を過ごせたことは、私たちにとってとても大切な想い出となった。





居心地のいいエリアに住むのはとても幸せだった。しかし、私たちにはやらなければならないことがあった。そう、アトリエ探し。 アーティストの夫が絵を描くのにふさわしい場所探しは、渡仏してすぐ始めていたが、なかなか思うような場所が見つからなかった。パリ市内の不動産事情は戦場といっても過言ではない。競争率は大体20~30倍。その中で大家さんが誰に貸すかを決めるシステム。外国から来た人、という時点で大体蹴られてしまう。 知り合いに口コミで良い物件がないか聞いてもらったり、ネット上でありとあらゆる物件を見つくし、だんだんと疲れ切ってきた頃、突然理想的な物件に出会うことができた。パリ中心部からは少し離れるが、パリ中心部では広いスペースと天井高を持ち合わせた物件を見つけることは不可能だった。
ネットで見つけた翌日にオーナーに連絡を取り、その日のうちに見学に行った。もとは工場だったこの場所は、天井高が5m以上あり、北向きの窓。私たちが思い描いていたとおりの場所で、久しぶりに心が高鳴った。私たちの見学の前にはすでに4組の人が見にきていて、ハードルの高さを感じた。物件を借りるには、過去3ヶ月分の給与明細、電気代の支払いやこれまでの経歴など、ありとあらゆる書類の提出が必要だった。日本人で、しかもまだ滞在許可証もおりていない、働くこともできない私たちには、絶対に不可能としか考えられなかったこの理想的な物件。どうしても、どうしても手に入れたい!そんな想いから知り合いの方に通訳に入っていただき交渉を重ねた結果、色々な条件はあったものの、ものすごいスピードで借りることができた。これは奇跡としか言いようがなかった。あぁ、神様、ありがとうございます!!私たちはそんな風に何度も叫んだ。
そして、昨年11月に渡仏してから4ヶ月、私たちはこの想い出が詰まった小さなアパートから引越しすることとなった。
ロックダウン中のパリで経験したこと。
・到着3日目にボイラー故障 真冬の中のお湯なし生活 ・水漏れ 2回 小さなアパートが洪水に ・トースター爆発 ・モーター交換 水を最上階まで引き上げるモーターの故障 ・マニフェスタシオン(デモ) ・ゴミ箱が燃やされ警察が暴徒化した人たちを追いかける様子は日常茶飯事 ・銀行口座のアクティベートとシークレットコード問題 一体どれだけ時間がかかったか。。。 ・突然のめばちこ、蕁麻疹 ・夫、突然の嘔吐 もう絶対公園でVin chaud(ホットワイン)は飲まない ・滞在許可証をやっともらえた日にスマホを盗まれる
だいたいのことは経験できた笑



ここからが私たちの本当の第1章。
古い工場を改装して作られたこの建物は、理想的なスペースではあったものの、絵を描く場所としては不十分な要素が多かった。1ヶ月に及ぶリノベーションはすべて自力。大型のホームセンターは閉鎖、工具、材木、ペンキなど通常なら簡単に手に入るものが入らない。届かない。それでも作品を作る前に、その気にさせる環境を作ることはもっと大切だった。



















美しいパリ中心部からしばらく離れ、リノベーションに没頭した1ヶ月は手の生傷が絶えない日々でしたが、無事に完成したアトリエで、夫はようやく制作活動を開始することができた。
またここで起こる様々な奇跡と新しい出逢いが楽しみでなりません。

6月15日から7月7日
渡仏後初の個展開催




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